アカデミアから民間に転職してみて

技術革新のスピードが加速度的に増す中で、研究室レベルのテクノロジーがすぐにプロダクト化されマネタイズされる事例も多くなっています。すでに、アカデミックと民間の垣根が無くなってきていると言えるでしょう。

民間企業では、アカデミック出身の研究者を採用するケースが増えており、大学などの研究室から民間企業に移る人も増えてきました。逆もしかりで、民間企業からアカデミックに行くというケースも増えてきています。

そのような状況の中、国は「クロスアポイントメント」制度を後押ししています。これは、研究者が、大学や公的研究機関、民間企業の中から2つ以上の組織と雇用関係を結ぶというもの。給与はそれぞれの組織が分担して雇用する仕組みになっています。このように、研究者がアカデミックと民間の垣根を超えて、研究や教育に従事することができるようになり、新たな研究者のあり方として定着していくかもしれません。

このような状況の中、東北大学の助教授からCyberAgentのReseach Scientist職に転職した山口光太さんに、アカデミアから民間企業に転職してみた感想、働き方、モチベーションなどをうかがってきました。

Q.東北大学で働いていた時とCyberAgentで働いてみて、仕事の面白みの違いはどこにありますか?

山口さん:
CAで働き始めてから働き方で一番大きな違いとして感じるのは、事務作業が大きく減り研究開発に集中できるようになったということがあると思っています。大学で助教をしていたときの業務内容は多岐に渡っていました。大きく分けて研究室運営、大学学務、教育、学会活動、そして自身の研究活動です。これらの業務の割合は分野やポジションによりますが、当時は自身の研究活動に費やせた業務時間は多くて20%-30%程度ではないかと思います。幸いにして若手教員で研究予算も必要分は確保できていましたが、講座制を取る日本の大学では研究室運営にかなりのエフォートを使わざるを得ませんでした。大学教員の面白さは研究トピックを自分で決めて好きな研究をやったり、学生の成長を見守る喜び、学会での研究者との交流などが挙げられると思いますが、その代わりに大学運営の事務作業や予算獲得のプレッシャーを感じるというデメリットもあるとは思います。

Q.CyberAgentでは、研究に集中できているということですか?

山口さん:
はい。CAでは複数プロジェクト合わせて業務時間の70%以上は研究開発に費やしています。研究対象は会社内の業務データとなることが多いですが、アカデミアでは触れることのできない非公開大規模データを扱うことができたり、大学教員の時と大きく変わらないスタイルで若手社員の成長を見守ったり、学会で研究発表をしています。私はコンピュータサイエンス分野出身だったこともあり業務データに対し過去の研究経験を生かしながらPhDならではの難しい研究課題解決方法を期待されている点は強く感じますし、最もやりがいを感じるところです。研究以外の時間は社内部署間の調整やイベント企画、広報、人事関連の業務が入りますが、業務が電子化され効率が良いためこれまでのところ負担は少ないように感じます。学術研究プロジェクトによくある形での予算獲得競争を考えずに研究活動に専念できる点は民間企業ならではの利点と思います。

Q.モチベーションの持ち方に違いはありますか?

山口さん:
同じ研究業務であっても大学と民間企業では業績評価が違うことで仕事に取り組むモチベーションに違いが生まれます。学術機関では研究予算の獲得数や論文数が絶対的な評価となるため、なるべく多くの論文を権威ある学会で発表することが目標となります。また、学術機関は予算制約のために非常に競争的な環境であり、プレッシャー主導で研究業務を進めていくことになるかと思います。モチベーションとしてはイス取りゲームのような感覚でしょうか。特に日本国内の学術機関では努力して業績を積み上げることで自分自身の待遇が上がっていくというよりは、努力し続けることで現状維持(例えば次年度予算獲得)、そうでなければマイナス(例えば任期切れ)という評価環境であるように思います。また大学機関は全体的に高齢化が進捗している点で若手教員の評価には不利な環境なのではないでしょうか。

Q.CyberAgentでのモチベーションとは?

山口さん:
民間企業での研究開発体制は様々ですが、自分自身は心理面での余裕を持ちながらも難しい課題に挑戦できている点、以前と同じように学会発表や研究者の交流を続けられている点、業績を積み上げることで適切に評価がなされ自分自身の成長を感じられるようになった点がとても良かったように思います。民間企業ならではの未熟な研究組織体制や部署の壁というのも存在しますが、逆にその組織を成長させていくためにPhD取得者が大いに活躍できるチャンスがあるという実感もあります。昨今はアカデミアと民間企業の間での人材流動もよく聞くようになり、研究職としてキャリア設計する上で不自由は感じません。コンピュータサイエンス分野ではGoogleやFacebookのようなハイテク企業から最先端の研究が生まれるような状況になっており、最近は企業研究者として基礎的な研究と実務を結びつける面白い課題に心置きなく挑戦できる環境になってきたように思います。高度な技術的内容を論文や学会発表という形で的確に人に伝えられる能力を持った博士人材はますます貴重になっています。

最後に、副次的に仕事とプライベートの時間を分けて確保できるようになったことも持続的に仕事を続けるモチベーションになっています。業務での心理的な余裕があることで例えば週末は仕事を離れてゆっくり過ごせる機会が増えたように思います。


2017-12-05 | Posted in コラムComments Closed 

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